素食の背景
ここでは、台湾人からみた素食の背景についてご説明させていただきます。

台湾における素食の理由

台湾において、素食(ベジタリアン)になる理由は大きく分けて二つあります。

①宗教
台湾の宗教は大きく分けて3つ、道教、仏教、キリスト教です。もちろんこの他にも多様な宗教が存在していますが、いずれも信者に、素食になることを強制はしていません。

また、宗教者も素食に対するスタンスは、人によりその度合いが異なります。完全な素食の道教、仏教の宗教者は、肉を食べないだけでなく、動物性たんぱく質を一切摂りません。また、五葷(ねぎ、たまねぎ、らっきょう、にら、にんにく)も摂りません。しかし、同じ宗教者でも卵や牛乳を摂る方々もいます。その基準は宗派や個人的に認識によりかなり異なります。

②健康
これも人によって、「どこまで素食か」について、大きく差が出ます。

台湾素食料理は大変美味しい物が多いです。よって、「本当は肉や魚を食べたいのだけど、健康の為に我慢」しているという感覚はありません。むしろ、素食を積極的に楽しんでいるように思います。

健康のために素食となっている人の中には、肉や魚は摂らないが、乳製品や卵は摂るという方もいますし、スープや味付けなどに肉の出汁や味が入っていても構わないという方も居ます。

公的な場所では必ず素食がある

台湾では公的施設の食堂には、素食の食堂が有ると言っても過言ではありません。台湾では病院はもちろん、軍や刑務所にもちゃんと素食の食堂が用意されています。この事からも台湾で如何に素食が根付いているかが伺えます。

素食文化は元々、宗教的理由や健康を気遣う人々の規範あるいは習慣だったのですが、台湾ではすでにひとつの食文化と言って良いでしょう。それは市民権を得ているのはもちろん、なくてはならない食のメニューなのです。

台湾における素食の飲食店事情 

台湾に一度でも行った方なら、街の中で「素食」の文字を見かけた事があるかもしれません。台湾では、何処でも普通に素食を食べることができます。どんな辺鄙な場所にも素食の店があるといってよいかと思います。たとえ「素食」の看板が見当たらなくても、一般の食堂には素食メニューを用意している場合が多いです。

素食を実践されている方々は、宗教者を除くと、健康意識が高い方々と言えます。台湾には信仰を持った人が多いのも理由の一つでしょう。

けれども何より「素食は美味しい」ということが、台湾で素食が普及した第一の理由だと思われます。台湾素食の特徴的な点は、植物性の食材で作られているが、触感が肉や魚にそっくりに似た、ある種の「擬似肉」「擬似魚」が豊富に作られ、幅広く食べられ、そしてそれがとても美味しい点です。

台湾には所謂、素食レストランの銘店が数多く存在します。素食のレストランや食堂は、一般のそれと同様に競争が激しく、生き残るために提供する側の努力は欠かせません。実際、台湾の素食レストランは美味しくなければすぐに潰れてしまいます。よって、素食は単に宗教的理由や健康的理由に止まらず、美食の一環としても広く受け入れられています。

台北の有るレストランではバイキング形式で現地価格700元(日本円で約2800円)ですから、台湾の食事としてはかなり高い方だといえます。しかしその店は、世界中からのお客さんでいつも満員です。予約なしではほぼ入れません。つまり、世界中の素食者、ベジタリアンにとって、そのレストランは素食での大変なご馳走を味わえる、世界屈指のレストランなのです。台湾の各大都市には必ずこの様な大きな素食レストランがあります。

台湾の冠婚葬祭における素食事情

台湾での結婚式では、素食の席と肉食の席が設けられ、互いの箸や皿が触れ合う様な事は決してありません。これは台湾では常識で、宗教宗派に関係なく厳格に分別されます。

一方、葬儀では弔問客に宴席が設けられますが、葬儀ということもあり肉料理は出されません。ほとんどの場合、調理人が現場で素食料理を調理し、その場でふるまわれます。

この様に台湾の冠婚葬祭では素食が出される訳ですが、 他にも宴席やパーティー等でも、素食は必ずと言って良いほど用意されています。例えば選挙戦等の時にも、大きな演説会等では宴席が設けられます(ここは日本と違う常識なので深く言及しません)。この様な時にでさえ、素食はきちんと用意されます。

インバウンド旅行客獲得と素食

素食のインバウンド旅行客を多く呼び込みたい日本の飲食店は、台湾の素食食堂と同じもしくはそれに準じた体制をとる必要があります。

また、旅行客に素食の人と、そうでない人が混在することにも注意が必要です。同じ家庭でも、素食の人と、そうでない人が分かれていることもあります。

例えば、お父さんお母さんは素食、長男と妹は肉食。次男はそれ程厳しくない素食、と言った例は台湾ではごく一般的です。

つまり、家族が外食する場合、同じ店に素食メニューと肉食メニューがある方が望ましいと言えます。素食メニューを用意することは、単に素食の人を呼び寄せるというコトに留まらず、素食の方と肉食の方の混在する家族やグループを集客するというコトにつながるのです。

思うに、真の「おもてなし」とは、単に提供する側の都合で行う表面上のサービスではなく、お客様のご都合やご要望を理解してあらかじめ予見し解決してさしあげることではないでしょうか。そのためには、相手を知り、その立場に立つことこそ、最高のサービスではないでしょうか。もちろんこれらは、今までの作業に新たな手間と作業を必要としますが、得られるメリットは計り知れません。

台湾や中国では、ネット等で入念な下調べをして旅行に来る方々が多いです。もし、日本で一度でも美味しい素食が食べられたなら、その人達の家族やグループはそれ以降も高い確率でその店に立ち寄ると考えて良いと思います。きちんとした素食の提供、ならび素食の人向けの情報提供は、中華圏からのお客様へのサービスを、根本から変える事になるはずです。

☆台湾には素食の人は1割も居るということ
☆その人達は旅行に来ると、大変困っているということ
☆素食の人達を呼べれば、肉食の方々も一緒に取り込めるということ

以上、三点を理解していただきたいと思います。

素食に対する正しい理解と誠意が必要

再三述べているように、素食とは、単に肉類を摂らないということでは有りません。例えば、肉や魚のエキスや出汁等もNGです。これは徹底して守らなければなりません。素食の方々は、肉の匂いや味にとても敏感で神経質です。一度NGを出されると、半永久的にそこへは近づかないと考えてよいでしょう。

また、野菜なら何でも良いと考えるのもNGです。一部の素食者は、五葷のニラやニンニク等は肉以上に摂りません。これも同様に提供する側の誠意を試されるでしょう。また、上記以外も細かな調理、提供時の禁止事項があるので、これらを正しく守る必要があります。

先日、私が日本で経営している飲食店に日本人のベジタリアンの方がお見えになりました。聞けばまだ台湾に行った事が無く、TVや雑誌で紹介される台湾グルメは肉ばかりだからとの事でした。私が台湾素食を紹介したところ、早々にチケットを購入すると仰っていました。

そうなんです。世の中、肉が好きな人ばかりではないのです。台湾グルメは、肉を食べない人にとっても大変嬉しい場所なのです。

私たち、日本素食振興協会が日本で広めようとしているのは正にこの事なのです。言ってみればベジタリアンの方々、そしてその方達を取り巻く人々に、笑顔をもたらす事と言えるのではないでしょうか?沢山の方々に笑顔を提供できたら、どんなに素晴らしいでしょう。

従ってこれは、大きなインバウンド誘致に繋がり、観光客の満足度を高めることができる、と確信を持って言えるのです。